ビザ申請・国籍帰化

国籍の喪失

入管専門の実務家の仕事は入管や外務省だけではなく、法務局、つまり国籍申請・帰化申請や、国籍の喪失、国籍の取得等もあります。ただ、以下は外国人が帰化するのとは逆に、日本人が国籍を失いました、と宣告された事案です。最近、ニュースで事実誤認ないし、法令の解釈適用の誤りにより、多年にわたり、日本国籍がないものとされたという事件があり、あれなどは、「やはり氷山の一角だった。」と思ったものです。

移民法学のエッセイを掲載するコーナーです。


移民法学エッセイ1

1:「国籍の喪失」

以下は筆者(行政書士)が、法務局から、「国籍を喪失したので、喪失の手続を行うように。」、と言われた、という案件において、法務大臣や民事局長等宛てに、急ぎで作成した文章の一部です(あてはめ等一部修正)。事実関係は省略させて頂きます。移民法務・入管国籍法務が完全に法律問題だということをご理解いただくためのものです。なお、これにより、結果は、法務局の撤回によって、国籍喪失の手続を免れました。


第二 上申人行政書士の解釈ないし主張
法解釈の究極は社会通念ないし条理によって規律されるところ(民法1条2項3項)、本件のような場面で子どもの意思に関わらず、二重国籍防止の法理ゆえに、日本国籍の喪失という極めて甚大な法律効果を、親の意思のみで認容するとの解釈を帰結する法文(国籍法11条1項、18条)は、包括的基本権(憲法13条)に抵触するきらい無しとし得ない点で、違憲無効を主張する余地がある。また、自己責任の法理もこのような子どもの権利を親が一方的に侵害する場面では、自己責任を裏付ける担保が無いので、後退を余儀なくされると解される。
 したがって、仮に上記の国籍法の法文が法令違憲、適用違憲、運用違憲にまでならなくとも、このような規定および法例21条を解釈するに際しては、子どもの人権を侵害しないように、謙抑的かつ条理に合致するように解釈することが必要と解するのが相当である(同旨、後掲文献1、155頁は、「積極的な意思」を要件とし、「重大な変更をもたらす」ので、「真意に基づく」ことを要件と解釈する。)。
とすれば、国籍法11条、18条にいう「法定代理人による意思表示は、日本法上適法なものでなければなら」ず、「外国国籍を取得した結果、日本国籍を喪失するか否かはわが国の問題であ」る(同上文献1、154頁)。のみならず、改正法例21条の「規定によれば、子の本国法が父母いずれかの一方の本国法と一致すれば、子の本国法によることになっているから、父母のいずれかが日本国籍を有している場合には日本民法によることになる」(後掲文献2、356頁)。
そこで、以下日本民法に拠って検討する。親権は「父母が共同してこれを行う」(民法818条1項3項)。よって、「父母の一方のみの申請によって外国国籍を取得したとしても、自己の志望による外国国籍の取得には該当しないことにな」る(後掲文献1、154頁)。なぜなら、無権代理として、無効となるからである(判例・通説)。
 以上を本件についてみるに、本件では、母たる丙の帰化申請の際に、父たる乙は、A国への帰化申請書類に長男である甲の氏名まで記載されたことまでは全く知らなかったし、父である乙がサインするような欄ないし、書類は無かったうえ、さらに、乙は甲のA国籍取得への同意は一切していない、等とのことであるから、父たる親権者乙の意思的関与ないし同意はなんら看取されず、法律行為の意思表示の効果意思が明白に欠缺している。
以上の事情を勘案すると、本件では、「日本法上適法な法定代理人による・・・国籍の取得と認められ」(後掲文献4、249頁)ないので、「自己の志望」(国籍法11条1項)に該当せず、甲は日本国籍を喪失しておらず、日本国籍とA国籍の二重国籍者であると解するのが相当である。
以上
[主な参考文献]
1 「国籍・帰化に関する実務相談」、渉外身分関係実務研究会編、日本加除出版、平成15年。
2 「逐条註解 国籍法」、木棚照一、日本加除出版、平成15年。
3 「親族法」、我妻栄、有斐閣、昭和36年。
4 「国籍・帰化の実務相談」、法務省民事局第五課 国籍実務研究会編、日本加除出版、平成5年。
5 「ここが知りたい国籍法100題(増補版)」、国籍実務研究会編、テイハン、平成10年。
6 「戸籍」平成15年6月第745号、4頁乃至5頁、島野穹子、テイハン。
7 「演習国際私法(新版)」、山田鐐一・早田芳郎編、有斐閣、平成4年。
[参照先例]
1 「昭和54年5月19日法務省民五第3087号民事局長回答」
2 「昭和54年6月21日法務省民五第3492号民事局第五課長回答」
3 「昭和55年12月8日法務省民五第7013号民事局第五課長回答」
4 「昭和55年7月15日法務省民五第4087号民事局長回答」

‡記事執筆‡イミグレーション戦略コンサルティングファーム行政書士あさひ東京 代表 古川 峰光

‡記事執筆‡イミグレーション戦略コンサルティングファーム行政書士あさひ東京 代表 古川 峰光

自身が国際結婚し、2万人以上の相談、20年以上の実績を有するイミグレーションコンサルタント兼行政書士。イミグレーション戦略の基盤となる渉外戸籍のマネジメント、在留資格のプログラム、来日後のライフステージに応じたサポート、永住権や国籍までの羅針盤になるようなコンサルテーションを実施。さらには、国際家族を形作ることに関わるアドバイザリー業務をコラボレーション。行政書士あさひ東京は総合的なインバウンド・イミグレーションの真のコンサルティングサービスとしてご提案致します。

関連記事

お問い合わせINQUIRY

弊所代表行政書士古川峰光の著書

『入国管理局とビザ』(株式会社朝日ネット)[Amazon]

 

入国管理局とビザ入管実務については、広義では二つの分野があります。一つは、国際結婚手続等の渉外身分法に関わる分野、もう一つは外国人雇用の法務という就労の分野です。企業や市民から多数の相談を受けてきた著者が、在留資格と入国管理の世界で新たな視点を提示する。入国管理局の特質、申請の技術、退去強制と外国人雇用の関係、申請と許可の要件、不許可への対応方法……。入管に関わる企業と個人とが留意すべき事項を解説。(amazonの書籍説明より)

 

 

『国際結婚手続とオーバーステイ』(株式会社アルク)[Amazon]

 

国際結婚手続とオーバーステイ憲法の精神(憲法13条)や手続保障(31条)の見地から、国際結婚夫婦に人道的配慮ないし人権救済が必要であるのはいうまでもない。しかし、日本人と結婚しても顧慮されずに不許可処分ないし強制送還等される事例が極め日本人と結婚しても顧慮されずに不許可処分ないし強制送還等される事例が極めて多いことは知られていない。この本の内容は、現場的な視点での解説、意外に見落とす盲点等をピックアップし、国際結婚手続全般と、その応用としての「オーバーステイ」を研究し、解説する。(amazonの書籍説明より)

弊所代表行政書士古川峰光のTV取材

○テレビ
テレビ取材も、2002年の創業以来、余りに多くの取材を受けたため、全てをご紹介することができませんので、一例だけご案内致します。

TBS1TBSテレビでは、ビザ・入国管理局関連問題等をコメント致しました。また、無資格者(非行政書士)によるビザ申請の問題等をコメント致しました。入管業界は専門家と称する行政書士事務所の質が低いのも問題なのですが、それと同様に、無資格者(非行政書士)によるビザ申請も問題になっています。非行政書士は様々な形を取ります。非行政書士であっても、事実上は広告を出すことは可能ですから、TBS2直接広告する場合もありますし、有資格者の行政書士の名義を用い、名目上は行政書士に仕事をさせているが、実際には非行政書士がマネジメントを行っている業者の場合もありますし、法律事務所に勤務の通訳等が、外国人コミュニティの内部で勝手に宣伝のうえ受任し、法律業務を行っている場合もあります。外国人と結婚なさる皆様に、入管業界のベテランかつ国際結婚の経験者としてお伝えさせて頂きたいのは、TBS3外国人側から紹介等で案内された業者は経験則上、無資格者だったり、有資格者であっても、ブローカーまがいの質の低い業者が多いという事実です。ここは日本ですので、法律家を選ぶ際は、日本人側が日本語で読み、聞いて頂き、その上で、選ぶことを強くお奨め致します。
テレビ朝日では、偽装認知の問題をコメント致しました。偽装結婚も偽装認知も件数は大変に多く、この結果、入管の審査では、正常な夫婦のご結婚の案件が、TV_ASAHI1偽装案件の山の中に埋もれてしまっているのが実情です。偽装結婚で逮捕されて処罰された人から直接、話を伺う機会があり、どのように偽装しているのかお聞きしました。写真を何枚か見せられ、そこには日本人男性の実家にて、日本人男性の両親と、結婚相手の外国人女性とが、仲良く写真に収まっていました。「よくやる方法なんですけど。」とその方は言われました。つまり、このように巧妙な手口で偽装されており、審査官からしても、TV_ASAHI2簡単には見分けはつきません。ところが、入管法上、許可に必要な立証責任は申請する側にあり、入国審査官側には存在しないのです。この結果、この構造を理解せず、気軽な気持ちで形だけ書類を用意し、申請して多数の申請が不許可になっています。
また毎日放送では、フィリピンから日本への介護での就労についてコメント致しました。就労については、典型的な就労資格である「人文知識・国際業務」、「技術」、「企業内転勤」以外に、「技能実習」、「特定活動」、「留学」での「資格外活動」等と多岐に渡りますが、当事務所代表行政書士は、これらを横断する問題や、これらと国際結婚、配偶者、家族滞在、永住、帰化等が複合的に絡む問題を多面的に考察することができます。

最近の記事
おすすめ記事
  1. 写真集「出入国在留管理局」2 -解説付き-

  2. 【行政書士古川峰光の日々雑感ブログ】

  3. 入国管理局職員の採用等

  1. 在留資格認定証明書と配偶者ビザ等

  2. ビザ申請と出入国在留管理局

  3. 国際恋愛の出会いについて

Certified Legal Specialist

あさひ東京総合法務事務所は、総務省所管の行政書士制度における行政書士であり、法務省が認可した入国管理局への取次制度有資格事務所です。あさひ東京総合法務事務所は、以下の行政機関等に係る法的サービスを提供致します。
Gyoseishoshi Asahi Tokyo are Certified Administrative Procedures Legal Specialist Office authorized by Ministry of Internal Affairs and Communications and Ministry of Justice. Gyoseishoshi Asahi Tokyo Certified Administrative Procedures Legal Specialist Office can perform legal services in government ministries and agencies as follows.


行政書士と総務省

行政書士と法務省

行政書士と外務省

行政書士あさひ東京総合法務事務所

行政書士あさひ東京の対応国

フィリピン,タイ,中国,ロシア,ウクライナ,ルーマニア,モルドバ,ベラルーシ,リトアニア,パキスタン,バングラデシュ,イラン,シリア,スリランカ,ネパール,ミャンマー,韓国,台湾,インド,インドネシア,マレーシア,ベトナム,カンボジア,モンゴル,ブラジル,アメリカ,カナダ,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,スペイン,ポーランド,オーストラリア,チリ,ペルー,ボリビア,メキシコ,コロンビア,ナイジェリア,ウズベキスタン,トルコ,チュニジア等(順不同)(一例であり特定の国に限定はしておりません)

行政書士あさひ東京の対応地域{全国・海外対応・来所不要}

配偶者ビザと国際結婚の行政書士米国・中国等海外在住中の方、東京都内全域・多摩市・青梅市・日野市・東久留米市、神奈川県横浜市・川崎市・海老名市・厚木市・相模原市・茅ヶ崎市、千葉県松戸市・八街市・船橋市・市川市・流山市・八千代市、埼玉県さいたま市・戸田市・川口市・秩父市・新座市・八潮市・習志野市、茨城県古河市・稲敷市・水戸市、栃木県宇都宮市・栃木市、群馬県高崎市・前橋市・伊勢崎市、福島県郡山市、いわき市、宮城県、長野県松本市、新潟県、静岡県、青森県、岩手県、愛知県名古屋市・豊橋市、京都府、奈良県、広島県、北海道札幌市、鹿児島県、その他、日本全国対応。沖縄県那覇市から北海道札幌市までご依頼頂いております。また、弊所はご来所不要です。オンラインでお客様側のスマホ、タブレット、PCと弊所の端末をつなぎ、ビデオ通話と画面共有機能等を用い、これと別途ご送付する紙媒体資料を組み合わせることで、対面でご案内した場合と変わりのないレベルのご案内ができることが実証されております。特別なアプリや設備はご不要で、すぐ始められます。

国際結婚、配偶者ビザ、仮放免、再申請

配偶者ビザ、国際結婚手続の体験談

配偶者ビザのお客様体験談
配偶者ビザ迅速対応。国際結婚、国籍対応。
TOP